日常・現代

ちいさな物語

#280 冷蔵庫の中の今日も談論風発

夜、冷蔵庫を開けると中から声がした。「議長、そろそろ本日の討議を始めませんか?」私は一瞬、ドアを閉めて深呼吸し、再び冷蔵庫を開けた。牛乳パックの隣で、タマゴパックがカタカタ震えている。「時間です、議長!」議長? 誰だよ。首を伸ばして冷蔵庫を...
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#274 闇の覚醒者、コンビニへ行く

最強の覚醒者である俺は、真夜中の闇に紛れ日常を厨二的に変換しつつ、コンビニを目指した。
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#272 おじいちゃんのペットドローン

新しいもの嫌いの頑固な祖父と、ペットのドローン「フワル」。ぶつかり合う二人に、少しずつ心が通っていく。
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#270 イグアナ通学路

朝、目を覚ましてカーテンを開けると、いつものように巨大なイグアナが庭にいた。俺は制服に着替え、トーストをくわえながら外へ出る。イグアナはすでに俺を待っていた。「おはよう、グスタボ」そう、俺はこいつをグスタボと呼んでいる。名前の由来はよく覚え...
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#269 仮病師の奥義

「仮病は、他人に知られないことが最低限のマナーである」そう語るのは、倉持朔太郎くらもちさくたろう、三十七歳。自称・仮病師。正式な職業ではない。しかし、彼の中では仮病とは一種の“礼儀作法”として確立されていた。ズル休み――その言葉には嘘と怠慢...
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#264 役に立たない発明

街外れの古いレンガ造りの工房には、奇妙な発明家が住んでいた。彼の名はエミールという。見た目はまさに絵に描いたような『変人発明家』。髪はぼさぼさ、服はいつも油まみれだ。エミールの発明品といえば、例えば『くしゃみする靴』、『泣き出す時計』、『笑...
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#262 塔の果てに咲く音

レオンが塔を見たのは、七歳の春だった。塔は村のはずれにあり、いつからそこにあったのか、誰も正確には知らない。気づいたときには、すでに雲の上まで伸びていた。そう、「伸びた」のだ。空を裂くように立つその塔は、石ではなかった。木のような、骨のよう...
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#260 ルームフレグランス

新しい部屋に越してきた夜、友人から小包が届いた。中身は、洒落たガラス瓶に詰められたルームフレグランス。細いリードスティックが数本ついている。そして、「新生活に癒しを」と、メッセージカード。香りはラベンダーと柑橘を混ぜたような、どこか懐かしい...
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#259 ニーチェとフルーチェ

フルーチェを食べているときだけ、ニーチェが話しかけてくる。そんなおかしな現象に初めて気づいたのは、火曜日の午後だった。特に夢もなく、目標もない。大卒なら就職くらいできるだろうと淡々と課題をこなしている自分にとって、フルーチェは唯一の慰めだっ...
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#258 無限リバーシブル株式会社の謎

「おはようございます。リバーシブルでお願いします!」その日も、ぼくは元気に会社の自動ドアをくぐった。
無限リバーシブル株式会社に勤めて三年。だが、いまだに自分が何の仕事をしているのか説明できない。出社すると、エントランスには「表と裏、どちら...