日常・現代

ちいさな物語

#249 五月闇の雨宿り

眠れない夜、雨に誘われて家を出た少女がたどり着いた古い祠。深い五月闇の中で、だれかと静かに語り合う。
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#246 オットイアの棲む家

「ねえ、“オットイア”って知ってる?」友人の紗織が、砂糖を入れたコーヒーを混ぜながら不意に言った。主婦たちの集まりの中、ざわつくスーパーのフードコート。涼しい木曜日の午後、いちばん空気がゆるむ時間帯。「夫嫌って書いて、“オットイア”」初めて...
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#243 小石のバトン

それはただの、小石だった。歩道に落ちた、丸く削られた白い小石。加工されたものであることは一目瞭然。どこかの敷地に敷き詰められていたものを、子どもが拾って遊んでいたのだろう。通行人が意図せずそれを蹴飛ばし、転がった先は、都内の静かな住宅街の交...
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#242 冷蔵庫の狂気

引っ越し先のアパートには、備え付けの冷蔵庫があった。真っ白な本体は古びていて、冷蔵庫というより巨大な棺桶に見えなくもない。前の住人が置いていったものらしく、家主も「処分していい」と言っていたが、昨今家電を捨てるのにも金がかかる。どうせ必要な...
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#240 夢の原液を売る店

「ねえ、あれ見た?」そんな噂からすべては始まった。通学路の途中、古ぼけたレンガ塀の裏に、いつのまにか現れていた露店。店というには奇妙で、店員らしき人物もいない。ただ、古い木の台が置かれ、その上に小瓶が並んでいるだけ。野菜の無人販売所といった...
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#234 はないちもんめ

「かってうれしい はないちもんめ まけてくやしい はないちもんめ」その歌は、ある日、世界中で流れはじめた。テレビでも、スマートスピーカーでも、コンビニのBGMでも。誰もがどこかで聞いたことのある童謡。でも、それが“合図”だとは、最初は誰も気...
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#233 我は自販機、ここに在り

私は、ここにいる。設置されたのはたぶん、もう何十年かは前になる。地下鉄の三番線ホーム、柱の陰。少し視界が悪いが、それでも人の流れはよく見える。私は——自動販売機。古めかしい外観に、ガタガタと音を立てて働く中身。ジュース、コーヒー、水、たまに...
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#229 愛なき者

朝、目覚めたとき、部屋の空気が少し違っていた。テレビをつけるとニュースキャスターがにこやかに言っていた。「おはようございます。愛しています」それを受けて、司会者、ゲストらしき人々も次々に「おはようございます。愛しています」、「愛しています」...
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#224 水曜日だけの魔法使い

僕の能力は週に一度、水曜日にだけ使える。名前は『ウィークデイ・ウィザード』。中二病全開の名前だが、実際のところ、あまり役に立つ能力ではない。月曜や火曜に襲われても何もできないし、木曜や金曜に困っている人に出会っても、助けることすらできない。...
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#222 空間のひずみに落ちた人たち

「ここは空間のひずみに落ちた人たちが、とりあえず集まる場所です」目を覚ましたとき、私は灰色の部屋のソファに座っていた。目の前に座る男性が穏やかな口調で告げた。彼は上品なスーツを着て、眼鏡越しの瞳は優しく輝いている。「空間のひずみ……って?」...