ほっこり

ちいさな物語

#308 最強バカップル

日曜日の昼下がり、僕はカフェでのんびりとコーヒーを飲んでいた。窓際の席で外を眺めながらぼんやりしていると、向かいの広場に尋常じゃないほど目立つ二人組が現れた。それはまさに「バカップル」と呼ぶにふさわしい光景だった。まず、二人ともお揃いの派手...
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#307 虹の終点、ランティス渓谷で

僕らの旅は風まかせ。一応、冒険者を名乗っているが、危険なことは一切しない。いつも前を歩くのは快活なカナ、風景をスケッチするのは双子の妹のリナ、そして僕――地図と胃袋を預かっている。ほんのちょっとだけ剣が扱えなくはないが、この旅に出てから一度...
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#303 姫、魔王城に留学する

「魔王様、私、ここで勉強したいんです」魔王城の玉座の間で、姫はにこやかな表情で魔王に入学願書を差し出した。「勉強だと? ここは学び舎ではないぞ」魔王は困惑して角の生えた頭を掻いた。そもそも姫は人質として攫ってきた存在である。泣いて救出を待つ...
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#302 龍の谷

昔々、とある山奥に小さな村がありました。その村の近くには深い谷があり、そこには龍が棲むと言われておりました。村人たちは昔から、その龍の怒りを鎮めるために若い娘を谷に捧げる風習がありました。「龍の怒りに触れてはならぬ」と、年寄りは口々に言い、...
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#301 夏祭りの後

夏祭りは毎年家族で行く恒例の行事だった。兄と私は浴衣を着て、母と三人で神社の境内に向かう。兄は射的が得意で、いつも私の分まで景品を取ってくれる優しい人だった。けれどその夜は、兄の様子が少し違っていた。神社の境内は大勢の人で賑わっていた。屋台...
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#300 百年茶のひととき

古びた骨董店で、趣深い茶器を見つけた。棗(なつめ)、いや、茶入れと呼ぶのか。持ち上げてみると中身が入っているような様子だった。「これ、中はどうなっているんですか?」店主はかなり高齢で、茶器を見ると不思議なものを見るように目を丸くした。「おや...
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#299 色のある場所

そのチラシを最初に見たのは駅前だった。何気なく拾ったそれが、まさかこんなことになるなんて、あのときの自分は思いもしなかったんだ。拾い上げてみると、「あなたの求める答えがここにあります」という一文と、下部に手書きで書かれた住所だけ。それ以外の...
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#292 始祖鳥の夜間飛行

それは、ひっそりと静まり返った夜の博物館で起きた。展示室の奥、始祖鳥の骨格標本が眠るガラスケースの前を、夜警の坂本は巡回していた。ほんの僅かな違和感――空気の流れがわずかに変わったかのような感覚が、彼の足を止めさせた。懐中電灯の光を向けると...
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#290 繰り返される日常アニメからの脱出

目覚めて時計を見ると、毎朝決まって午前7時30分。
窓の外では必ず同じ小鳥がさえずり、同じ車が家の前を通る。「あれ、今日も昨日と同じだな」最初はそんなもんかと思っていた。しかし、何日経っても何も変わらない。学校に通い、同じ友達と話し、同じよ...
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#286 保留音の向こう側

「少々お待ちください」取引先の受付の女性にそう言われ、俺は電話の受話器を肩に挟んだまま、机の上の資料をめくっていた。特別なことではない。電話越しには、よくある電子音のメロディが流れている。月曜の午後、少し眠い頭で、ついBGMのように流してい...