ほっこり

ちいさな物語

#351 記憶のスープ

閉店間際の店に、ずぶ濡れの男が飛び込んできたんだ。ボロボロのスーツなのに妙に穏やかな笑み――あんな客、初めてだったよ。その日は特に客足も少なく、雨も強くなってきたから、早めに店を閉めようと思って、外の看板を片付けようとしたその時だった。ガラ...
ちいさな物語

#349 恋愛マスターの真実

「恋愛ってのはさ、駆け引きがすべてなんだよ」また始まった。友人同士で恋愛話に花を咲かせていると、必ずどこからともなく割り込んでくる男、篠原。自称・恋愛マスターの彼は、毎度のごとく偉そうな口調で恋愛を語り出すのだが、友人の誰もまともに耳を傾け...
SF

#348 不幸を願う幸福の手紙

その奇妙な「不幸の手紙」は、ある朝、突然僕のスマホに届いた。送り主の名前はない。ただシンプルなメッセージが表示されているだけだった。『この手紙を7人に送らないと、あなたに小さな不幸が訪れます』僕は鼻で笑った。こんな時代に不幸の手紙なんて、古...
ちいさな物語

#346 扉の向こう側

その扉は、昨日までは確かにそこにあった。学校帰りの路地裏、雑居ビルの影に隠れるようにして、古ぼけたレンガの壁面に場違いなほど鮮やかな緑色の扉が存在していたのだ。「あれ、こんなのあったっけ?」最初にその扉に気づいたのは夏樹だった。夏樹は好奇心...
SF

#345 最後のジョーク

その日、朝から奇妙なニュースが流れていた。科学者たちが巨大な隕石が地球に衝突すると断言したのだ。どのテレビ局も『残り24時間』というタイマーを画面の端に表示し、街は緊張に包まれる――はずだった。しかし、実際には奇妙なことが起きていた。街頭に...
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#342 花びらに溶けた記憶

「ごめんなさい。あなたのことを覚えていないんです」その一言が、陽介の胸に深い穴を開けた。彼女――芽衣は静かな病室のベッドの上で、陽介に微笑みを向けた。窓の外では春の風が桜の花びらを運び、まるで雪のように降り積もっている。芽衣は一週間前に交通...
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#340 正しい歴史

「じゃあ、このページを開いて。今日は江戸時代の終わりから明治時代の始まりについて勉強するぞ」歴史の授業。いつもと変わらぬ風景のはずだった。俺は教科書を開き、指定されたページを見た。——そこで、目が止まった。『江戸幕府は宇宙進出を試みたが、技...
ちいさな物語

#337 カウンターの男

「信じてもらえないかもしれないけど、このバーに幽霊がいるって知ってるか?」隣の席の男が唐突に話しかけてきた。その夜、僕はいつものように馴染みのバーで一人、静かな時間を楽しんでいた。彼の声は静かな店内にしっくりと馴染み、不思議な雰囲気を作り出...
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#333 不条理百貨店へようこそ

いつの間にか、その百貨店に足を踏み入れていた。目の前には巨大な吹き抜けが広がり、華やかな照明と軽やかな音楽が流れている。しかし、不思議なことに、入り口を通った記憶がまったくなかった。もしかしてこれは夢か?受付に立っていた店員に、ここがどんな...
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#332 桜憑き

満開の桜並木をぼんやりと眺めていた。風に吹かれ、花びらがひらひらと舞う姿が美しい。「綺麗だな……」呟きながら目を細めていたら、強い風が吹きつけてきて、思わず目を閉じた。次の瞬間、奇妙な感覚に襲われた。体が軽く、小さくなったような気がする。ゆ...