ほっこり

ちいさな物語

#333 不条理百貨店へようこそ

いつの間にか、その百貨店に足を踏み入れていた。目の前には巨大な吹き抜けが広がり、華やかな照明と軽やかな音楽が流れている。しかし、不思議なことに、入り口を通った記憶がまったくなかった。もしかしてこれは夢か?受付に立っていた店員に、ここがどんな...
ちいさな物語

#332 桜憑き

満開の桜並木をぼんやりと眺めていた。風に吹かれ、花びらがひらひらと舞う姿が美しい。「綺麗だな……」呟きながら目を細めていたら、強い風が吹きつけてきて、思わず目を閉じた。次の瞬間、奇妙な感覚に襲われた。体が軽く、小さくなったような気がする。ゆ...
ちいさな物語

#330 迷宮のうた

目を開けると、石の天井があった。ひんやりとした空気と、かすかに漂う鉄と苔の匂い。私は、なぜここにいるのかも思い出せないまま、立ち上がった。四方を囲むのは、重厚な石の壁。奥へと続く一本の通路があり、私は迷うことなくそこを歩き出した。歩き続ける...
ちいさな物語

#327 赤いラインの傘

昨日の夕方のことだ。ちょっと急いでいて、コンビニの傘立てに置いておいた自分の黒い傘を慌てて掴んで帰ったんだ。家に着いて玄関で傘を開いて確かめてみて驚いたよ。僕の傘じゃなくて、よく似た赤いラインが入ったものだったんだ。「やっちゃったな」と思っ...
ちいさな物語

#326 最後のプレイヤー

「世界を賭けたカードゲームだよ」気がついたとき、僕は見知らぬ部屋にいた。薄暗い天井からぶら下がる裸電球が、テーブルの上に鈍い光を落としている。向かいには三人の男が座っていた。テーブルには古びたカードが並び、そのどれもが長い年月そのもののよう...
ちいさな物語

#325 森の宴

森の奥で迷ったとき、遠くから楽しげな音楽が聞こえてきました。導かれるように進むと、そこには奇妙な光景が広がっていました。私はその日、特に目的もなく森を訪れただけでした。あえて言うなら、ただ日常から逃げたかったのです。しかしどこかで道を間違え...
ちいさな物語

#320 天使がうちに降りてきた

雲間から一筋の光が降りてきたとき、なんとなく予感があったんだ。「何かが始まるな」ってね。それは、いつもの昼下がりだった。空が急に暗くなったかと思ったら、雲の隙間からまばゆい光が差し込んできた。その光の中に、何かがいた。いや、誰かと言うべきか...
ちいさな物語

#313 扉の向こう、夕陽の果て

残業につぐ残業。しかし労働環境がブラックといわれると、そこがすごく曖昧だ。有給は頑張ればなんとか取れる。上司は厳しいが、ぎりぎり常識の範囲内。ただ、人手不足なのか、残った人員への仕事は日に日に増えていく。いっそ笑えるくらいのブラックな環境で...
SF

#311 彗星が落ちたあとの話

彗星が落ちたという丘に足を踏み入れたのは、夏の終わりだった。丘には不自然なくぼみがあり、その底で一人の少女が空を見上げている。その光景はかなり奇妙だったが、なぜか僕は怖くなかった。「君、大丈夫?」声をかけると少女はゆっくりと振り返った。月の...
ちいさな物語

#309 鐘のない鐘楼

昔々、とある小さな村に、一つの大きな時計塔があった。村のどこからでも見えるその塔は、長い年月を刻み続け、村人たちの生活を支えていた。だが、この時計塔には奇妙な噂があった。「どれだけ階段を登っても、鐘楼にはたどり着けない」村人たちは子供の頃か...