ほっこり

ちいさな物語

#565 名探偵アリスの微笑み

霧が深く立ち込める古い洋館の広間で、一人の少女が優雅にティーカップを傾けていた。彼女の名は結城アリス。この界隈では「歩く芸術品」とまで称される美少女探偵だ。ウェーブがかった長い黒髪に、陶器のような白い肌。そして、すべてを見透かすような深い瑠...
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#564 ダンスタウンダンス

最初は「新手のフラッシュモブか?」って思ったんだよ。月曜の朝、駅前。全員がスマホを見ながら歩く、いつもの朝だと思っていた。そこへ突然、パン屋の店員がトングを持ったまま、ヒップホップのステップを刻み始めた。トングをカチカチと鳴らしながら、腰を...
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#562 まずは気軽な散歩から

運動不足を解消しようと思って、僕はスマホに散歩アプリを入れた。歩数を数えて、歩いた距離でレベルが上がり、バッジがもらえる。ただそれだけの、よくある健康系アプリだ。最初の数日は楽しかった。近所の川沿いを歩くと「散歩レベル2」「健康に一歩近づき...
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#561 失恋保険

二十五歳の会社員、佐藤健斗は、公園のベンチで隣に座る同僚の美咲を見つめていた。三年間、ずっと胸に秘めてきた想い。今日こそはそれを言葉にするつもりだった。喉の奥がカラカラに渇き、心臓の音が耳元まで響いている。「あの、美咲さん。ずっと言いたかっ...
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#560 夢の税務署からの呼び出し

最初の呼び出しは、寝落ちしたソファの上だった。目を閉じたはずなのに、俺は蛍光灯の白い光の下に立っている。床は灰色のタイルで、空気は書類と鉛筆の匂いがしていた。正面の看板に、でかでかと「夢税務署」とある。「え?」と声が漏れた。受付の窓口には、...
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#559 時刻表の王子様

私は通勤電車の同じ車両で、半年くらいずっと気になっていた人を眺めていた。背が高くて、コートをきれいに着こなしていて、顔がやたら整っている。スマホじゃなくて、本を読んでいるところもポイントが高い。ページをめくる指まで絵になる。そんな人が毎朝い...
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#557 ワン・タク

ある朝、駅前のロータリーに「本日より犬が運行します」という手書きの立て看板が立っていた。胡散臭い。誰かのいたずらだろうか。そう思って笑った俺の目の前を、馬くらいある巨大な犬が、すました顔で横切っていった。首輪には青いプレートで「空犬」と書か...
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#555 ヴィンテージ

ねえ、君は「物に魂が宿る」なんて話、信じるかな?付喪神なんて言葉もあるけれど、あんなおどろおどろしいものじゃない。もっとずっと、静かで、温かくて、それでいて少しだけ切ない……そんな不思議な出来事に、僕は出会ってしまったんだ。場所は、街外れに...
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#549 何もできない彼女と僕の旅

僕はだいたい何でもできた。剣も振れるし、魔法も使える。地図を読めば迷わないし、罠も見抜ける。料理も、裁縫も、交渉も、計算も、それなり以上にこなせる。できないことも少しやってみれば、すぐにできるようになった。ところが彼女は違った。剣は持てない...
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#542 琥珀色の帰郷

その村の名を、仮に「K郷」と呼ぶことにする。民俗学のフィールドワークとして訪れたその場所は、地図の上では等高線が重なり合うだけの、深い皺のような山間に隠れていた。バスは一日に二本、携帯電話の電波は村の入り口にある大きな杉の木の下でしか拾えな...