ほっこり

ちいさな物語

#565 名探偵アリスの微笑み

霧が深く立ち込める古い洋館の広間で、一人の少女が優雅にティーカップを傾けていた。彼女の名は結城アリス。この界隈では「歩く芸術品」とまで称される美少女探偵だ。ウェーブがかった長い黒髪に、陶器のような白い肌。そして、すべてを見透かすような深い瑠...
ちいさな物語

#561 失恋保険

二十五歳の会社員、佐藤健斗は、公園のベンチで隣に座る同僚の美咲を見つめていた。三年間、ずっと胸に秘めてきた想い。今日こそはそれを言葉にするつもりだった。喉の奥がカラカラに渇き、心臓の音が耳元まで響いている。「あの、美咲さん。ずっと言いたかっ...
ちいさな物語

#560 夢の税務署からの呼び出し

最初の呼び出しは、寝落ちしたソファの上だった。目を閉じたはずなのに、俺は蛍光灯の白い光の下に立っている。床は灰色のタイルで、空気は書類と鉛筆の匂いがしていた。正面の看板に、でかでかと「夢税務署」とある。「え?」と声が漏れた。受付の窓口には、...
ちいさな物語

#559 時刻表の王子様

私は通勤電車の同じ車両で、半年くらいずっと気になっていた人を眺めていた。背が高くて、コートをきれいに着こなしていて、顔がやたら整っている。スマホじゃなくて、本を読んでいるところもポイントが高い。ページをめくる指まで絵になる。そんな人が毎朝い...
ちいさな物語

#557 ワン・タク

ある朝、駅前のロータリーに「本日より犬が運行します」という手書きの立て看板が立っていた。胡散臭い。誰かのいたずらだろうか。そう思って笑った俺の目の前を、馬くらいある巨大な犬が、すました顔で横切っていった。首輪には青いプレートで「空犬」と書か...
ちいさな物語

#549 何もできない彼女と僕の旅

僕はだいたい何でもできた。剣も振れるし、魔法も使える。地図を読めば迷わないし、罠も見抜ける。料理も、裁縫も、交渉も、計算も、それなり以上にこなせる。できないことも少しやってみれば、すぐにできるようになった。ところが彼女は違った。剣は持てない...
イヤな話

#537 幸福の抜け殻

隣の芝生は青い、という言葉がある。だが、私の家の隣にある芝生は、青いどころか発光しているんじゃないかと思うほどに眩しかった。数年前に越してきた工藤家のことだ。旦那さんは大手商社勤務で、毎朝爽やかな笑顔でジョギングを欠かさない。奥さんは料理上...
ちいさな物語

#532 世界平和戦記

世界戦争が勃発した――とニュースが流れた。けれどキャスターは妙に穏やかで、画面の隅にはなぜかユーモラスな鳩のマスコットがぴょこぴょこと揺れていた。まるでホームビデオの紹介でもしているような画面だ。『速報です。ついに各国が平和的戦争に突入しま...
ちいさな物語

#528 異世界ツアー案内人

あ、どうも。僕は異世界旅行社の添乗員をやってる者です。正式名称は「時空観光案内人」。担当はファンタジー世界。だけどまあ、だいたいの人は「ガイドの人」といったらわかりますかね。仕事の内容?一言で言えば、別世界へ行きたい人たちを連れて、安全(※...
ちいさな物語

#526 アニマルファンタジー

登山を決行した朝は、ひんやりした空気に満ちていた。俺たち四人は久しぶりに会って、楽しく山を登っていた。大学で出会い、サークル活動を通して仲良くなり、長い時間を一緒に過ごした四人組。就職して半年、ようやく予定が合って登山の計画を立てることが出...