ほっこり

ちいさな物語

#497 春と秋の旅

ある年の冬、空がやけに静かで、雪の粒が音もなく降りつづいていた。春の神と秋の神は、久しぶりに顔を合わせていた。春は淡い桃色の衣をまとい、いつもどこか浮かれている。秋は深い金茶の外套を羽織り、落ち着いた眼をしていた。春が言った。「ねえ、秋。ぼ...
ちいさな物語

#496 灰の夜

あれは、北の街道を歩いていたときのことだった。霧が濃く、馬の蹄の音が霞の中に吸い込まれていくような夜だった。宿を探しているうちに道を外れ、気づけば森の中にいた。ふと視界の奥に明かりが見えた。揺らめく何かの光。あんなところに何かあっただろうか...
ちいさな物語

#491 喫茶店のノート

あのノートのこと、話したっけ。あれは、三年前の秋のことだった。仕事帰りにたまに寄っていた古い喫茶店があってね。「カフェ・コトリ」って名前だったんだけど、看板の文字はかすれて、扉のベルも半分壊れてるような、こういっちゃなんだけど、うらびれたよ...
ちいさな物語

#488 給食革命〜おかしなランチ〜

月曜日の昼休み、いつもと同じ給食時間。でも、その日だけは空気が違った。「……なにこれ」俺の隣で、クラスの委員長・佐藤がスプーンを持ったまま固まっている。その日の給食のメニュー表にはこう書かれていた。【本日の献立】・ふんわりマシュマロカレー・...
ちいさな物語

#487 絵本の扉をくぐる子どもたち

放課後の図書館は、いつも少し埃っぽい匂いがした。窓から差しこむ夕陽が、木の床をオレンジ色に染める。その日、四人の子どもたちは誰も開けたことのない本棚の前に立っていた。鍵のかかった扉が、なぜか少し開いていたのだ。「ねえ、これ、ずっと閉まってた...
SF

#486 転校生の秘密

あの日、教室のドアが開いた瞬間、空気が変わった。転校生の悠木さん。その瞬間、ざわめきすら止まったのを覚えている。誰もが彼女を見た。息をのむような美しさというやつだ。黒くてまっすぐな髪。光を吸い込むような瞳。ただの高校生とは思えない、異様な静...
異世界の話

#485 小さな光の魔法

この魔法は本当にくだらない。指をパチンと鳴らせば小さな光が灯る。ただそれだけ。熱もないし、眩しさもない。道を照らすにも弱すぎる。見せても笑われるだけだ。手品の一種だと思われているみたいだが、手品にしても地味極まりない。「そんな魔法、ホタルの...
ちいさな物語

#481 霜柱の神さま

冬の朝ってさ、空気が張り詰めてるだろ。息をするだけで、胸の奥まで冷えるようなあの感じ。俺は昔から冬の朝が好きだった。特に、霜柱を踏む音。しゃり、しゃりって音がたまらない。子どものころからそうだった。学校へ行く道すがら、道端の霜を見つけては、...
ちいさな物語

#479 記憶配達人

俺の仕事は配達人だ。……と言っても、新聞配達や宅配便とは違う。俺が届けるのは、「記憶」。人の記憶と世界のあいだに生じた矛盾を埋めるため、存在しなかった出来事を、あたかも「あったこと」のように届ける。そうすることで、世界は平穏を保つ。世界は、...
ちいさな物語

#470 師匠と歩いた五日間

「師匠、さっきも休憩しましたよね?」「うん、したね。でも、また休憩したくなったんだ」いつも通りの返答だった。私は深くため息をついた。私の師匠、フェルディナント・エイグルは、王都でも名の知れた魔法使いだ。いや、一応はそう呼ばれているが、実際は...