くすっと笑える

ちいさな物語

#111 致命的なタイプミス

「このキーボードは、打った言葉を現実にする」店主にそう言われて、俺は半信半疑でその黒いキーボードをながめる。古道具屋にキーボードというのがめずらしくて、俺はそれを手に取っていた。どこにでもある普通のキーボードと変わらない。ただ、モニターにつ...
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#110 回る歯車

俺の仕事は単純だった。作業場に入る。機械の前に立つ。決められたタイミングでレバーを引く。それだけだ。俺が引くレバーに連動して、巨大な歯車がゆっくりと回り始める。最初は重たそうに軋むが、やがて安定し、規則正しいリズムを刻む。そして俺は決められ...
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#109 終演後の笑い声

売れない芸人の吉村は、漫才師として最後のチャンスを掴もうと、地方の古い劇場にやってきた。その劇場は「必ず笑いが取れる」というジンクスで知られていたが、どこか陰気な雰囲気が漂っていた。「どんなネタでも笑いが起こるなんて、ウソだろ」相方の健太が...
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#106 コンビニ仙人

深夜のコンビニには、時々変な客がいる。大声で独り言を言いながらおでんを選ぶおじさん。棚の前で微動だにせず立ち尽くす女子高生。酔っ払ってATMと口論しているサラリーマン。まあ、深夜のコンビニなんてそんなものだ。でも、あの仙人は、もっとおかしい...
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#103 声を聞いた者

町の外れには、誰も足を踏み入れたがらない古い建物がある。かつては工場だったというが、倒産後は長らく放置され、壁も床も朽ち果て、鉄骨がところどころ剥き出しになっている。噂によれば、廃墟の奥から夜な夜な人の声のようなものが聞こえるらしい。しかし...
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#101 チャラ神様のご加護

深夜、人気のない神社の境内。今年こそ、彼女ができますように。鳥居をくぐると、目の前にキラッキラのスーツを着た男がいた。「やっほ~☆ 君、悩みとかあんの?」「……は?」金髪オールバックにサングラス。胸元をはだけさせ、金のネックレスがジャラジャ...
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#097 ポイント人生

目が覚めた瞬間、頭の中に奇妙な声が響いた。──「おめでとうございます。あなたは人生三周目に突入しました」何だ? 俺は、今、生まれたばかりなのか? 意識だけがはっきりしているが、身体は動かない。赤ん坊だからか? いや、違う。手を見れば、しっか...
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#092 言い訳の数

「被告人、あなたは万引きの罪で起訴されていますね?」裁判官の問いに、被告の男は堂々と答えた。「いえ、あれは不可抗力でした。」「不可抗力?」「そうです。ちょうどその日、私のズボンのゴムが緩んでましてね。歩いていたらスルスルっと下がってきたんで...
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#089 あさりの味

大好きだったあさりの味噌汁。なのに、もう、あの味がわからない。失われていくのは、味か、それとも——。
イヤな話

#088 並ばない女

コンビニのレジ。横から、ひとりの女がためらいもなく割り込んできた。まるで、そこが自分の場所だと信じきったように。