くすっと笑える

ちいさな物語

#557 ワン・タク

ある朝、駅前のロータリーに「本日より犬が運行します」という手書きの立て看板が立っていた。胡散臭い。誰かのいたずらだろうか。そう思って笑った俺の目の前を、馬くらいある巨大な犬が、すました顔で横切っていった。首輪には青いプレートで「空犬」と書か...
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#556 骨董品屋の返品帳

うちの骨董品屋には、返品帳という帳簿がある。売上帳の横に並べて置いてあるが、客に見せられるようなものではない。理由は単純で、あまりにみっともないからだ。骨董品屋をやっていると、どうしても一定数、戻ってくる品がある。割れたわけでも、欠けたわけ...
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#553 甘い行列

バレンタインを目前にしたある日、俺は百貨店の前にいた。目的は単純で、テレビの特番で取り上げられているような、凝ったバレンタインチョコレートをちょっと試しに買ってみようくらいのものだった。値段も高く、行列に並ぶ必要があることは事前に確認済みだ...
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#552 吠えられる理由

隣の家の犬は、俺を見ると必ず吠える。朝でも、夜でも、距離があっても関係ない。門の前を通るだけで、低く、しかし確信に満ちた声で吠える。他の人にはそうでもない。子どもには尻尾を振り、配達員には警戒の目を向けつつ黙っている。俺にだけ明確な敵意を向...
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#550 知育菓子への耐性

最初に違和感を覚えたのは、知育菓子なのに硬すぎたことだった。説明書には「やさしく噛みましょう」と書いてあるのに、歯が折れそうなほど硬い素材だ。それでも俺は説明書通り、真剣に菓子を作成した。完成したそれは、どう見ても食べ物ではなく、さるぐつわ...
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#547 足がもつれて魔王城を制圧してしまいました

「あ、やべっ」それが、世界が救われた瞬間に発せられた声だった。場所は深夜の魔王城の最上階、「玉座の間」。魔族の皆様がぐっすりとお休みになられている間に、フローリングのワックスがけを終わらせる。それが、派遣清掃員である僕、テンタの任務だった。...
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#546 非常階段と住民たち

地震が来たのは、夜の十時を少し回った頃だった。遅くなのにエレベーターには数人が乗り合わせていた。最初は、いつもの小さな揺れだと思った。日本は地震が多い。だが、揺れが不穏に続く。「これは大きいぞ」と、誰かがつぶやいたとき、エレベーターが停止し...
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#545 電子の魔女

魔女なんて、科学技術が発展したこの現代にいるわけないだろ。仕事帰りに立ち寄ったカフェで、俺がそう言うと、彼女はスマホを触りながら小さく笑った。「魔女だって現代は電子機器を使いこなすわ」彼女は顔も上げず、スマートフォンの画面を指でなぞりながら...
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#543 柱

私は今日も黙って見つめている。この街の人々の、誰にも知られたくない恥ずかしい瞬間を。私は、この街の交差点や路地裏、あるいは公園のベンチの脇に突っ立っている「棒」だ。人間たちは私のことを電信柱だと思い、あるいは街灯だと思い、あるいはただの標識...
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#540 駅前でもらった飴の話

朝、駅前でおじさんが立っていた。背中に「飴係」と書かれたゼッケンをつけていた。「おはよう。飴いる?」差し出された手のひらの上には、緑色の包み紙のありふれた飴玉。だが、妙に気になった。「……なんの飴ですか?」「秘密だ」あやしい。そして意味がわ...