くすっと笑える

ちいさな物語

#560 夢の税務署からの呼び出し

最初の呼び出しは、寝落ちしたソファの上だった。目を閉じたはずなのに、俺は蛍光灯の白い光の下に立っている。床は灰色のタイルで、空気は書類と鉛筆の匂いがしていた。正面の看板に、でかでかと「夢税務署」とある。「え?」と声が漏れた。受付の窓口には、...
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#558 チョークの決闘線

仕事帰り、人だかりを見つけて足をとめた。チョークで書かれた円の周りに、同じく仕事帰りみたいな大人が十人ほど、距離を取って立っていた。不思議と張り詰めた空気が漂っている。「ここ、何やってるんですか」と隣の男に聞くと、男は小声で「バトル」と答え...
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#557 ワン・タク

ある朝、駅前のロータリーに「本日より犬が運行します」という手書きの立て看板が立っていた。胡散臭い。誰かのいたずらだろうか。そう思って笑った俺の目の前を、馬くらいある巨大な犬が、すました顔で横切っていった。首輪には青いプレートで「空犬」と書か...
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#556 骨董品屋の返品帳

うちの骨董品屋には、返品帳という帳簿がある。売上帳の横に並べて置いてあるが、客に見せられるようなものではない。理由は単純で、あまりにみっともないからだ。骨董品屋をやっていると、どうしても一定数、戻ってくる品がある。割れたわけでも、欠けたわけ...
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#553 甘い行列

バレンタインを目前にしたある日、俺は百貨店の前にいた。目的は単純で、テレビの特番で取り上げられているような、凝ったバレンタインチョコレートをちょっと試しに買ってみようくらいのものだった。値段も高く、行列に並ぶ必要があることは事前に確認済みだ...
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#552 吠えられる理由

隣の家の犬は、俺を見ると必ず吠える。朝でも、夜でも、距離があっても関係ない。門の前を通るだけで、低く、しかし確信に満ちた声で吠える。他の人にはそうでもない。子どもには尻尾を振り、配達員には警戒の目を向けつつ黙っている。俺にだけ明確な敵意を向...
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#550 知育菓子への耐性

最初に違和感を覚えたのは、知育菓子なのに硬すぎたことだった。説明書には「やさしく噛みましょう」と書いてあるのに、歯が折れそうなほど硬い素材だ。それでも俺は説明書通り、真剣に菓子を作成した。完成したそれは、どう見ても食べ物ではなく、さるぐつわ...
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#547 足がもつれて魔王城を制圧してしまいました

「あ、やべっ」それが、世界が救われた瞬間に発せられた声だった。場所は深夜の魔王城の最上階、「玉座の間」。魔族の皆様がぐっすりとお休みになられている間に、フローリングのワックスがけを終わらせる。それが、派遣清掃員である僕、テンタの任務だった。...
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#546 非常階段と住民たち

地震が来たのは、夜の十時を少し回った頃だった。遅くなのにエレベーターには数人が乗り合わせていた。最初は、いつもの小さな揺れだと思った。日本は地震が多い。だが、揺れが不穏に続く。「これは大きいぞ」と、誰かがつぶやいたとき、エレベーターが停止し...
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#545 電子の魔女

魔女なんて、科学技術が発展したこの現代にいるわけないだろ。仕事帰りに立ち寄ったカフェで、俺がそう言うと、彼女はスマホを触りながら小さく笑った。「魔女だって現代は電子機器を使いこなすわ」彼女は顔も上げず、スマートフォンの画面を指でなぞりながら...