くすっと笑える

ちいさな物語

#500 引っ張る

重いものを引っ張っている夢を、俺は定期的に見ている。季節に関係なく、年に三、四回ほど。体感では汗だくになっているのに、目が覚めると何ともなっていない。ただ不思議と筋肉痛にはなっている。夢の中では、俺はいつもロープを握っている。先は見えない。...
ちいさな物語

#498 天国について

「なあ、俺にとっての天国ってなんだと思う?」朝の喫茶店で、唐突に松田が言った。俺と坂口はコーヒーを飲みかけたまま顔を見合わせた。「いや、知らんけど」「そういうのは自分で考えるもんじゃないの?」松田は深刻な顔でうなずいた。「そうだな。でも俺、...
ちいさな物語

#492 森の熊田さん

ニュースキャスターが真顔で言った。「本日、午後二時ごろ、紳士風の熊が市内を歩いているとの情報が入りました」紳士風の熊。その言葉だけで違和感が爆発する。画面には熊。スーツにネクタイ。手にはブリーフケース。記者が近づく。「お仕事中ですか?」熊は...
SF

#490 冬の花火と宇宙人八割時代

地球がかなり宇宙勢力に負け始めていると気づいたのは、確か三年前の冬頃だったと思う。ニュースで「すでに世界人口の八割が宇宙人でした」と発表されたのがきっかけだ。アナウンサーが笑顔で言っていた。まるで「明日は晴れるでしょう」と同じテンションで。...
ちいさな物語

#489 全力バカ選手権

ことの発端は、昼休みのどうでもいい雑談だった。「人生で一番、くだらないことに本気を出したって経験ある?」営業の中村が唐突にそう言ったのだ。みんなポカンとしていたが、彼は真顔で続けた。「昨日、家のティッシュ箱の残りを何秒で引ききれるか、本気で...
ちいさな物語

#484 ロボット掃除機、逃走中

うちのロボット掃除機が逃げた。本当に、逃げた。電源も入れてないのに、玄関のドアの隙間からスッと出ていったのだ。夜中の二時。寝ぼけた俺の目には、あの丸いフォルムがまるで忍者のように見えた。「おい! お前、どこに行く!」叫んだが、返事はない。代...
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#482 かわいすぎる親友

「なあ、どう思う?」昼休み、いつものようにコンビニ弁当を食べていた俺の前に、見知らぬ女子が立っていた。いや、正確には女子じゃない。「……お前、マジで誰?」「俺だよ、健太」それを聞いた瞬間、弁当の唐揚げをのどに詰まらせた。ゴホゴホ言いながら、...
ちいさな物語

#480 六角の席

その日は教室の席替えの日だった。いつもなら机を動かして終わりなのに、急に担任が妙に楽しげに言った。「今日から特別な配置にする。六角形だ」うちの担任は少し変わっていて、いきなりこういうことをしだすのはよくあることだった。クラス中が「ハイ、ハイ...
SF

#471 宇宙海賊の長い一日

楽して稼ぐのが信条の宇宙海賊。無人の貨物船のはずが、おしゃべりAI相棒と、とんだ厄日に巻き込まれていく。
ちいさな物語

#468 作られた呪物

「なあ、呪いのアイテム作ろうぜ」昼休み、いきなりそんなことを言い出したのは友人の小田だった。「……お前、また変な動画でも見たのか?」「違うって! 『呪物作ってみた』系の動画が流行ってんの! それで俺らもやってみようぜって」変な動画、見てるじ...