ぞわっとする

SF

#354 氷の奥で眠るもの

その氷層は、南極の無人地帯にひっそりと眠っていた。調査隊が偶然に掘り当てた、地表から深さ約百二十メートルの地下空間。気温は常に氷点下八十度を下回り、人が簡単に足を踏み入れることを許さない場所だった。調査隊のベテランたちは、その地下空間の存在...
ちいさな物語

#346 扉の向こう側

その扉は、昨日までは確かにそこにあった。学校帰りの路地裏、雑居ビルの影に隠れるようにして、古ぼけたレンガの壁面に場違いなほど鮮やかな緑色の扉が存在していたのだ。「あれ、こんなのあったっけ?」最初にその扉に気づいたのは夏樹だった。夏樹は好奇心...
ちいさな物語

#344 赤いピンの目的地

大学生の翔太は、夜更かしをしながらネットを眺めていた。すると、スマホの通知が鳴り、マップアプリから「あなたにおすすめの場所」という通知が届いた。興味本位でアプリを開くと、見覚えのない山間部に赤いピンが立っている。翔太は地図を拡大したが、地名...
ちいさな物語

#343 独裁トースト

共和国の独裁者デメトリオス三世は、ある朝突然叫んだ。「トーストが国家転覆を狙っている!」誰もが耳を疑ったが、独裁者の命令は絶対である。即座に全国民にトースト禁止令が布告され、各家庭に配布されたパンの焼き加減確認官たちが、毎朝抜き打ちで各家庭...
ちいさな物語

#341 屋上の笑い声

あれは高校二年の夏の合宿でのことだった。うちのバスケ部は毎年、校内合宿をしていて、その日は夜遅くまで体育館で練習していたんだ。ようやく練習が終わり、片付けをしているときだった。静まり返った校舎の方から、奇妙な音が聞こえてきた。「……ん?」耳...
ちいさな物語

#339 真夏の犬はスイカを転がす

うだるような真夏の午後、庭で扇風機の風を浴びながらうたた寝をしていたら、飼い犬のチャッピーが唐突に言った。「なあ、夏といえばスイカだろ?」僕は目を開けるのも億劫だったので、そのまま曖昧に頷いた。するとチャッピーはさらに言葉を続ける。「じゃあ...
ちいさな物語

#338 交差点の悪魔

「会社の近くの大きい交差点、あの信号機の上さ、知ってるか? 夜になると、何かがいるんだよ。じっと交差点を見下ろしてる“あいつ”がさ」今思えば、同僚にそう言われて、そこを確認したことがすべての元凶だった。深夜の交差点は不気味なほど静かだ。その...
ちいさな物語

#337 カウンターの男

「信じてもらえないかもしれないけど、このバーに幽霊がいるって知ってるか?」隣の席の男が唐突に話しかけてきた。その夜、僕はいつものように馴染みのバーで一人、静かな時間を楽しんでいた。彼の声は静かな店内にしっくりと馴染み、不思議な雰囲気を作り出...
ちいさな物語

#336 しゃべるネクタイ

「んんー、朝はやっぱりネクタイ締めるの、窮屈だな」出勤準備でまだぼんやりしている僕が、いつも通りネクタイを締めた瞬間だった。「ちょっと! もっと優しく締めろってば!」「ん?」幻聴かな? 疲れすぎだな、と思っていると、またもや首元からはっきり...
ちいさな物語

#335 子供の森

バス停の向かい、小さな児童公園の入り口に、白く四角い板が一本の柱にくくりつけられている。文字も絵もない。ただの真っ白な看板だ。広告の準備中かと思ったが、数日経っても何も書き加えられることはなかった。「何か建つのかな」「誰かのいたずら?」通り...