寝る前に

ちいさな物語

#264 役に立たない発明

街外れの古いレンガ造りの工房には、奇妙な発明家が住んでいた。彼の名はエミールという。見た目はまさに絵に描いたような『変人発明家』。髪はぼさぼさ、服はいつも油まみれだ。エミールの発明品といえば、例えば『くしゃみする靴』、『泣き出す時計』、『笑...
ちいさな物語

#263 窓越しの隣人

僕のデスクは窓際で、隣のビルのオフィスがよく見える。こちらも向こうもガラス張りのオフィスだから、嫌でも互いの様子が目に入った。はじめはなんだかプライバシーが侵害されているようで、いい気分ではなかった。しかし、ある日の午後、ふと目を上げると、...
ちいさな物語

#262 塔の果てに咲く音

レオンが塔を見たのは、七歳の春だった。塔は村のはずれにあり、いつからそこにあったのか、誰も正確には知らない。気づいたときには、すでに雲の上まで伸びていた。そう、「伸びた」のだ。空を裂くように立つその塔は、石ではなかった。木のような、骨のよう...
ちいさな物語

#260 ルームフレグランス

新しい部屋に越してきた夜、友人から小包が届いた。中身は、洒落たガラス瓶に詰められたルームフレグランス。細いリードスティックが数本ついている。そして、「新生活に癒しを」と、メッセージカード。香りはラベンダーと柑橘を混ぜたような、どこか懐かしい...
ちいさな物語

#257 終わらない階段

目が覚めたとき、私は薄暗い空間にいた。足元には古びた木の階段が続き、上にも下にも終わりが見えない。左右には壁もなく、ただ漆黒の空間が広がるだけ。夢なのか現実なのかわからないまま、私は自然と階段を上り始めていた。一段一段、足を踏みしめるたびに...
ちいさな物語

#256 猫のしっぽの先で世界は回る

世界が猫に支配されているという、馬鹿げた陰謀論を聞いたことはあるだろうか。都市伝説やオカルト話に興味のない人であっても、どこかで一度は耳にしたことがあるはずだ。そう、「猫は世界を裏から操っている」という奇妙な説だ。もちろん、これは単なる冗談...
SF

#255 幸福化社会にて、鳥は歌わず

働かなくていい。食事も、運動も、睡眠すらも必要ない。人工代謝調整、神経伝達最適化、精神恒常性維持装置。技術の進歩によって人間の「必要」はすべて満たされた。娯楽は無限、痛みは除去され、争いも淘汰された。幸福化と名付けられたこの新しい時代の到来...
ちいさな物語

#254 星の卵を孵す方法

ペットショップで買った「星の卵」。毎晩語りかけて育てると、卵はやがて、ほんものの星になろうとして——。
ちいさな物語

#253 深夜の回転寿司屋

「駅裏にある深夜の回転寿司屋は何か変らしい」そう噂を聞きつけた僕は、金曜の夜、興味本位で閉店後の回転寿司屋を見に行ってみた。なぜか明かりがついていて、自動ドアが開いたままになっている。そっと中をのぞくと、普通に営業しているかのように明るかっ...
ちいさな物語

#251 マリー・ベル嬢のお茶会へようこそ

丘の上に、古い洋館がある。レンガの壁は苔むし、鉄製の門はキーキーと軋む音を立てる。しかしそこには、今でも人の気配があった。――金曜の午後三時。風がやみ、空気が甘くなる。そう、マリー・ベル嬢のお茶会の日だ。「まあまあ、お待たせしてごめんなさい...