寝る前に

ちいさな物語

#219 世界を救った臭い靴

「靴を脱げ、勇者よ!」長老の真剣な声が響くと、僕は困惑した表情で自分の足元を見た。靴?「早く、その靴の臭いで世界を救うのじゃ!」「いや、待ってくださいよ。何を言ってるんですか?」そう言い返した僕の前に、黒い霧のような怪物が迫ってきた。目の前...
SF

#218 新天地の孤独

目覚めた瞬間、僕は凍えるような寒さと眩しい光に包まれていた。意識が少しずつ鮮明になり、ゆっくりと目を開ける。薄暗いキャビンの中、コールドスリープのカプセルが整然と並んでいた。「乗務員ナンバー14、目覚めを確認。おはようございます、アンソニー...
ちいさな物語

#217 夢屋ユメコ

「こちら、お客様の今夜の夢チケットになります」カウンターの奥から女性が差し出してきたのは、淡いピンク色の厚紙だった。“初恋リピート夢:シナリオ型/記憶連動モード/時間:90分” と印字されている。夢を選んで眠る。それは今や、都会で働く人々の...
ちいさな物語

#216 あの角を曲がると、自販機がある

その自販機は、決まって夜中の二時過ぎにしか現れない。駅から少し離れた住宅街の裏路地。昼間に歩いても、そこに自販機などない。ただのブロック塀と、ゴミ集積所と、草の伸びた空き地があるだけだ。だが、ある夜、私は残業帰りにその道を通った。ふと、曲が...
ちいさな物語

#213 神さまの座布団

これはの、わしのばあちゃんが、そのまたばあちゃんから聞いたという話じゃ。昔々、山のふもとに「木長こなが村」っちゅう、小さな村があったんじゃ。田んぼと畑と、ちょっとした神さまがおるだけの、静かなところじゃった。この村ではな、毎年秋になると「神...
ちいさな物語

#211 名探偵の探しもの

探偵・御堂零士みどうれいじと初めて会ったのは、僕が働くカフェ「雨宿り」でのことだった。その日も静かな午後だった。雨が降り出したので、僕は表の看板を引っ込めようとしていた。そこに、濡れたトレンチコートを着た男がふらりと現れた。「温かい紅茶を」...
ちいさな物語

#208 約束の庭

午後三時、町外れの公園は、夏の匂いに包まれていた。僕は汗ばむ手のひらでサッカーボールを拾い上げ、適当に芝生に向かって蹴り戻した――つもりだった。乾いた音とともに、ボールは明後日の方向に飛んでゆく。「取ってこいよ!」友達が冗談まじりに叫ぶ。「...
ちいさな物語

#207 夢で見た城

最初にその城を見たのは、三夜前の夢の中だった。高い塔、深い堀、月明かりに照らされる石造りの回廊。人影はどこにもなく、静寂だけが城の隅々にまで満ちていた。目が覚めると、城のことが妙にはっきりと記憶に残っていた。夢にしては現実的すぎた。石の冷た...
ちいさな物語

#206 スキルチェック相談所

「あなたのスキル、無料で診断します――。」古びた木製看板に書かれた文字を眺めながら、僕はため息をついた。冒険者ギルドの試験を三回連続で落ちた帰り道だ。試験官の表情を思い出すと、胸が苦しくなる。戦士志望だが力は並以下。魔法も苦手。特別なスキル...
ちいさな物語

#205 願いを叶える水差し

その水差しは、駅裏の薄暗い古道具屋の棚に、ぽつんと置かれていた。釉薬の剥げた陶器に、幾何学的な模様。ひび割れた注ぎ口が、妙に気になった。「使えるよ。一滴で、なんでも願いが叶う」店主はそれだけ言って微笑んだ。どういう意味なのかよくわからなかっ...