すきま時間に

ちいさな物語

#396 あのとき出会った子供

あれはもう何年も前の話になるな。俺がまだ駆け出しの冒険者だった頃、仲間と共に異世界の荒野を旅していたときのことだ。ある街道沿いの村に立ち寄ったとき、ひょっこり顔を出した子供がいた。
年の頃は十歳くらいだろうか。痩せぎすで、けれど目が妙に澄ん...
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#395 とある記者の取材記録

俺は記者だ。剣士でも魔術師でもなく、ただペンを取り文章を書くことを生業にしている。要するに「事実を取材し、人々に伝える」のが仕事だ。勇者のように剣を振るう気もなければ、王に仕える気もない。俺が欲しいのは、ただ「よい記事のネタ」だけだ。今回の...
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#394 月影の庵

山には不思議な話がつきものでございます。中でも「月影の庵」の噂は、古くから村人たちの口の端に上り、子や孫へと語り継がれてまいりました。ある夜のこと。若い猟師の庄五郎が山で道に迷ったそうです。谷を越え、崖をよじ登るうちに日はすっかり落ち、辺り...
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#392 都市伝説を考える会

先週の金曜、友人に妙な会合に連れて行かれた。名前は「都市伝説を考える会」。聞いただけで胡散臭いだろう?薄暗い喫茶店の二階に十人ほど集まっていて、皆が輪になって話していた。年齢も職業もバラバラ。スーツ姿の中年、フリーター風の若者、妙に落ち着い...
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#391 宝石の森

森の奥深く、人の足がほとんど入らぬ場所に、奇妙な噂がある。木々の葉も枝も幹も、すべてが宝石でできた森があるというのだ。宝石の森――そう呼ばれていた。 それは、かつて旅の商人から聞いた話だった。最初は笑い飛ばした。宝石の森などあるものかと。だ...
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#388 最後の盆踊りの夜に

これから話すのは、ほんの少し昔、僕が小学五年生だった夏休みの最後の夜の出来事なんだ。田舎の小さな村だから、毎年盆踊り大会が開かれるんだけど、今年もその日がやってきた。夏休みの終わりに合わせて行われるから、僕ら子供にとっては夏のフィナーレだ。...
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#386 変な新聞記事

何年か前のことだが、地方紙に載った小さな記事が、妙に記憶に残っているんだ。――以下、記事のスクラップブックから抜粋する。近隣住民同士の口論、原因は「プリン」をめぐる主張の相違八月十八日午前八時ごろ、市内在住のパート従業員Aさん(42)とパー...
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#383 画鋲の町

僕の机の引き出しには、小さな箱に入った銀色の画鋲がある。文房具屋で買ったときは50個入りで、使い切ることなんて一生ないと思っていた。何しろ壁に画鋲でとめるものなんてそんなにない。お母さんからは壁に穴だらけになっちゃうからあまりたくさんは使わ...
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#380 あざらしからの残暑見舞い

今年の夏はやけに暑かった。八月の終わりになっても、蝉の声は止まず、夜になってもまとわりつくような湿気が抜けない。僕の住むアパートの郵便受けには、町内会の回覧板や広告しか入らないのが普通だ。だけど、あの日は違った。ポストを開けると、見慣れない...
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#376 夏空を渡るクジラ

今年の夏は、どうにも蒸し暑くて、毎日が退屈だった。セミの声ばかりが響く昼下がり、僕は屋上で空を眺めていた。団地の屋上は子供たちの秘密基地だったけれど、このごろは飽きてしまったのか誰も来ない。僕は寝転がって雲を見ていた。白い雲の切れ間に、ぽっ...