「話って? どういう話でもいいのか?」
さびれた観光地である。ほとんど誰も入らないような山道は電話で職員を呼ばないと開けてもらえない。
廃墟などのさびれた感じがいいとそこへ向かう人は少なからずいるらしい。だからたまたまそこに鉢合わせた人がいても、自分以外に物好きなヤツがいるんだなとしか思わなかった。
しかし待ち時間はどうしても長くなる。お互い世間話でもしなければ間が持たない。
今日、一緒に待っているのは妙な男である。
話を聞くと、観光ではなく身内のやっている店の商品を仕入れに来ているという。年季の入った旅装で長いこと家に帰っていないバックパッカーのように見えた。その男が何か話をしろというのだ。
「どんな話でもかまいません。人から聞いた話でも、噂話でも、子供の頃に聞いた怪談でも、なんなら作り話でもいいですよ。――もちろんタダでとはいいません」
男は懐から何かを取り出して見せた。それはただの……石に見えた。
「つるつるの石です」
「はぁ」
確かにただ石ころではない。きれいに磨かれてつるつると光っている。だがそれだけだ。5歳児なら大喜びだろうが、こちらは成人男子である。
「どうぞ」
強引に石を手渡され思わず受け取ってしまった。やはりただの磨かれた石である。
だが触っているうちに子供に戻るような気がしてきた。それこそ5歳児にでもなったような気持ちだ。こういう、その辺の石とは違うものを見つけただけで大発見だった。
石だけではないどんぐりや形のいい落ち葉、蝉の抜け殻、シーグラス、機械の破片……。
タマムシの死骸を持ち帰ったとき、おおらかな母もさすがに顔を引きつらせたのをおぼえている。こんなにキレイなのにどうしてだろうと思ったものだ。思わず思い出し笑いをしそうになる。
「まぁ、暇だしいいよ。登山仲間に聞いた話をしてやる」
男は思いのほか、うれしそうにほほ笑んだ。その笑顔に不思議と引きこまれる。
「――あれは確か2年くらい前の話だったかな」
――ここは「ちいさな物語屋」。
さきほどの男が、どこかの誰かから仕入れてきた話を並べているお店です。
あなたは今夜、どんな話が聞きたいですか?
このまま話を聞く
男が話してくれたのは、こんな話でした。

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